オメガ・スピードマスターの誕生背景と魅力について、紐解いていきます。サファイアクリスタル風防、自動巻きムーブメント、シースルーケースバックが当たり前に使われる時代に、なぜこのモデルだけが古い仕様なのか。
手巻きムーブメント、プラスチック風防の意味。ケースバックのシーホースの意味。そして、なぜいまこのモデルに注目すべきなのか、歴史的背景とともに見ていきたいと思います。
目次
スピードマスターの起源
オメガは、1848年に創業されたスイスの時計ブランド。シーマスター、コンステレーション、スピードマスター、デヴィルと、4つのモデルが軸として展開されています。
映画007で使用されたり、オリンピックでは公式タイマーを務めるなど、知名度人気ともにトップクラスであるとともに、近代的な技術面でも非常に優れているブランドです。
マスターシリーズのうち、もっとも後発だったスピードマスターが登場したのは、1957年のこと。クロノグラフ(ストップウォッチ機能)付きの腕時計として、世界で初めてタキメーターベゼルを搭載したカーレース用モデルとして開発されました。
1950年代当時のカーレースは、レーシングカーも今ほど作りの良いものではなく、コースも滑らかなものではありませんでした。ゆえに、振動に弱い機械式の時計にとっては、非常に壊れやすい過酷な条件でした。
そこでオメガは、小さく密集した作りのムーブメントを採用。さらに、シーマスターの開発で培った『気密性』や『耐磁性』の技術を用い、ケース内部に耐振動のためのインナーケースを装備することで、レース使用時の弱点を克服しました。
実はスピードマスター、元を辿るとその系譜はシーマスターにたどり着くんですね。そのため、ケースバックにシーホースの刻印が残っているというわけです。
こうしてレースでの使用という、過酷な条件を想定して作られたスピードマスターは、その性能が高く評価され、1960年代中盤には、NASAによって正式に採用。舞台は宇宙へと繋っていくこととなります。
NASAとスピードマスター
2019年現在、いまも変わらずNASA公認で使用されているのは、スピードマスター・プロフェッショナルのみです。では、なぜこのモデルが選ばれているのでしょうか。
その歴史は、『人を月に行かせる』という、壮大な目標に挑んでいた1960年代のアメリカから始まりました。
当時、NASAはマーキュリー計画やアポロ計画など、多くの有人宇宙ミッションを遂行していましたが、人類初の試みにやることが多すぎて大忙し。宇宙飛行士が宇宙に持ち出すカメラや腕時計にまで目を配る余裕がなかったといわれています。
そのため、飛行士は各々で判断し、オメガ、ブローバ、ブライトリングなどの時計を身に着けていました。
1962年、マーキュリー・アトラス8号とともに、宇宙飛行士ウォルター・シラー氏によって、宇宙に最初に持ち出されたオメガが、スピードマスターの2ndモデル『CK2998』です。
そこから2年後、NASAはようやく飛行士が身に着ける腕時計の選定に着手。10社のブランドに対し、宇宙での使用に耐えうるクロノグラフモデルの提案を依頼し、名乗りを上げた3社の時計でテストを実践しました。
その時の3社は、オメガ、ロレックス、ロンジン。結果、『あらゆる有人宇宙ミッションに適している』と評価され、テストに関わった宇宙飛行士たちが全員一致で選んだのがオメガ・スピードマスターだったというわけです。
こうしてNASA公認となったスピードマスターは、1969年7月、アームストロング船長率いるアポロ11号とともに、月に降り立ちます。スピードマスターは、この歴史的な出来事をきっかけに『ムーンウォッチ』という愛称でも親しまれるようにりました。
月に行くために行われたテストは非常に過酷なもので、NASAとしてもそう何度も行えるものでないことは、2019年現在の現行モデルであるスピードマスター・プロフェッショナルが、月に行った時代から細かい点のみの変更に留められていることからも読み取れますね。
正確な時を刻むクロノグラフウォッチであることは、宇宙での使用に限らず必要な条件ですが、それに加えて宇宙空間・無重力空間という特殊な使用環境では、ガラス風防では割れたときに飛散する危険がありますし、自動巻きのムーブメントはゼンマイが上手く巻き上げられない可能性があります。
そのため、今もなおプラスチック風防を使用し、手巻きムーブメントを搭載しているというわけです。
なお、2002年以降はいわば『地球で使うタイプ』の、サファイアクリスタル風防、シースルーバックの仕様も発売されています。
まとめ
2017年には、3つのマスターシリーズが揃ってから60周年ということで、「トリロジー」として当時のデザインで復刻されたことも話題になりました。
現行モデルとは違い、リューズガードが無かったり、ブロードアロー針のため視認性に難があるといった点より、普段使いよりもコレクション要素の強いデザインですね。
そして2019年。アポロ11号とともに月に行った1969年から50周年です。過去、記念モデルを多数発表してきたオメガですが、このタイミングでもなにかしらサプライズがあるかもしれません。
公式Instagramでは、1969年当時に使用されていたcal.321の画像が投稿されており、もしかしたらこのキャリバーを使った記念モデルが発売される、、、のかも知れませんね!
人類の宇宙への挑戦とともに歩んだスピードマスター。その歴史とロマンを感じながら、ぜひ楽しんでみてください!