2021.07.09

ボーム&メルシエ とは|ブランド誕生と時計コレクションの歴史

※この記事はウォッチ買取応援団としてYoutubeにアップした動画、「ボーム&メルシエの歴史|時代のニーズに合わせ変化し続ける老舗ブランド」の書き起こしです。

ボーム&メルシエの歴史について、お送りして参ります。ブランドの創業は1830年。実に190年もの間、一度も途切れることなく続いている名門ブランドです。

ブランドのモットーは、「妥協を許すことなく、最高品質の時計だけをつくる」というもの。この言葉の通り、創業期は、3大時計の様に複雑機構を得意としてきたブランドです。

しかし、近年はどうでしょう。シンプルで都会的な実用時計のイメージが強いのではないでしょうか。現に複雑機構は、パーペチュアルカレンダーが残っているのみです。

実は、ボーム&メルシエ、ある時を境に大きく方向転換をしています。それによって、今に至るまで歴史を途絶えさせることなく続いているブランドなんです。

ボーム&メルシエとは一体どんなブランドなのか。長い歴史を辿りつつ、その魅力を紐解いていこうと思います。

目次

1830年ボーム兄弟によって設立

さて、まずは創業期からお話していきます。創業は1830年のスイス ジュラ地方 レ・ボア村。ルイ=ヴィクトール・ボームと、ピエール=ジョセフ・セレスタン・ボーム兄弟によって設立されました。

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https://www.baume-et-mercier.com/

ジュラ地方は、古くから時計や精密機器の部品作りが盛んな地域です。本業は農家である家庭が多く、雪が続く冬の間の内職として、部品作りが行われていました。

ボーム家も1542年から続く、下請け工の一族。故に兄弟は、優れた技能を持っており、創業からわずか10年ほどで最初の自社製ムーブメントを完成させています。

また商才にも優れ、1851年にはイギリス ロンドンにボーム兄弟社として支店を設置。そこを拠点にヨーロッパそしてアジアへと販路を広めていきました。

世界各国で認められた腕前

世界に販路を広げた時代、ブランドが得意としていたのは、クロノグラフやグランドコンプリケーションなど複雑機構を搭載した時計。

その実力はパリ、ロンドン、メルボルン、チューリッヒ、アムステルダム、シカゴと、世界各国の国際展示会において、7つのゴールドメダルと10のグランプリを受賞したという経歴からも明らかです。

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また、1885年からは、ロンドン キュー天文台の精度コンクールへも出展しており、上位半数近くを独占していました。

1892年に出展したトゥールビヨン・クロノメーターにおいては、天文台最高記録を樹立。10年以上破られることがない大記録となりました。

ボーム&メルシエの誕生

20世紀に入り、ブランドの経営は創業者の孫ウィリアム・ボームの代へ。1918年、芸術品を扱う実業家ポール・メルシエと出会ったことで、ボーム&メルシエと名を改め、ブランドの成長をさらに加速していきます。

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優れた技師と、優れた商人。このようなタッグは、他のスイスウォッチブランドでも多く見られますよね。例えば、パテック・フィリップや、ヴァシュロン・コンスタンタンなど、超一流ブランドも技師と商人のタッグによって世界に広まっていった歴史があります。

ジュネーブへの移転

さて、新生ボーム&メルシエ。最初にとった戦略は、ジュネーブへの移転でした。ジュネーブというと、ジュラ地方とはまた違った起源を持つスイスウォッチの一大拠点です。

農家の副業から時計職人が輩出されていったジュラ地方に対し、ジュネーブはフランスなど、他国からの優れた職人たちが移住してきたことで、時計産業が発達しました。

先ほど例に挙げた、パテック・フィリップそして、ヴァシュロン・コンスタンタン発祥の地ですね。時計作りに七宝などのアート技法も取り入れている点、ジュラ地方と大きく異なるポイントかと思います。

で、ボーム&メルシエ、一体ここでなにをしたかったのかというと、ジュネーブシールの獲得です。

ジュネーブシールとは

ジュネーブシールとは、「技術的な面はもちろん、審美的な面でも、ジュネーブ製の時計がその伝統に基づいたものであることを公的に証明する」という規定。

ジュネーブ市が定める時計作りの規定で、その要件をクリアしたものに対し、与えられる証明書のようなものです。

要件は時計の性能だけでなく、素材や仕上げなど審美面にも及んでいることから、取得するのは非常に難しいとされています。

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例えば、装飾部品および機械地金は、角を面取りしポリッシュ仕上げを、側面にはヘアライン仕上げを
施さなくてはいけない。機械の歯車は、上下ともに面取りを施さなければならない。などなど。

取得には、高度な技術が必要となりますが、ボーム&メルシエは移転後すぐにこれをクリア。スイスウォッチ一流ブランドの仲間入りを果たしました。

ブランドの方向展開

と、ここまで見てみて、いかがでしょうか。1830年創業という超老舗。複雑機構を得意とし、世界各国で賞を受賞。世界展開。そしてジュネーブシールの取得。

王族との繋がりこそなかったものの、THE 高級ブランドといった感じ。まるで、雲上ブランドの様な経歴じゃないですか?

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しかし、いま現在、ボーム&メルシエのラインナップを見てみると、、、雲上ブランドどころか高級実用ブランドロレックスやオメガ、IWCよりも優しい価格帯の時計が並んでいます。

デザインも非常に都会的でオシャレ。買いやすく、使い勝手が良い!ということで、機械式時計デビューにもおすすめできるブランドになっているかと思います。

おそらく、ジュネーブシールを取得した時代、1920年頃までは高級路線だったのでしょう。

ではこの方向転換、一体いつ頃起こったものなのかというと、人々のニーズが懐中時計から腕時計へと変わっていった時代です。

腕時計が市販化されたのは、カルティエのサントスという時計が最初。1904年に試作品が作られ、1911年に一般発売されました。

カルティエは続けてタンクという腕時計も発売。1920年代より、他のブランドからも市販腕時計が登場し始め、市場ニーズは徐々に懐中時計から腕時計へとシフトされていきました。

シンプルで洗練されたデザインへ

ボーム&メルシエは、その時代潮流のなかで、自社が生きる道を選択。高額な複雑機構搭載ウォッチではなく、実用的でスタイリッシュな腕時計を作る方向へと舵を切っていったんですね。

腕時計の時代以降、ボーム&メルシエが作る時計は、シンプルな機能を洗練されたデザインで表現するというもの変わっていきました。

例えば、1930年代に作られた時計。メンズモデルの角型時計ですが、カルティエが先導したアールデコ調のデザインを取り入れています。これは、後にハンプトンというシリーズに繋がっていきます。

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女性用ウォッチのデザイン

また、ボーム&メルシエは、女性解放運動に強い関心を持っており、女性用の時計デザインにも注力。

『女性用の腕時計は、単に男性用を小さくしただけではない。』とし、激動の時代を生きる女性の願望を時計デザインに反映。

1940年代、女性専用の腕時計シリーズ『マルキーズ』を発表しています。

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ロゴに込めた思い

ボーム&メルシエの、こうした時代に合わせた変化。その時代に本当に必要とされる時計作りを行うという姿勢は、ブランドロゴからも読み取ることができます。

ボーム&メルシエのロゴは、ギリシャ文字のファイ。1950年代から使用されるようになり、1964年に商標登録が行われています。

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このファイという文字には、均衡という意味が込められているとのこと。

元々複雑機構を得意とし、ジュネーブシール獲得まで成し遂げた。しかし、世のニーズがなければ意味がない。

時代の変化、そしてそれによって変わる人々のニーズに合わせ、均衡を保つ必要が、我々の時計作りに課せられた使命であると。

変化する姿勢とプライド

この変化に対する耐性と言いますか、変化に合わせて自らも変えていく姿勢。それをロゴとして掲げ、変化することを不変にしているプライド。

これがあったからこそ、ボーム&メルシエというブランドの歴史は、一度も途絶えることなく、現在に続いたのかもしれませんね。

スイス時計業界に大打撃を与えた70年代クォーツショックの時期においても、活動を止めることなく、時計作りを継続。

ドイツ バーデン=バーデン装飾コンクールおいて、最も優秀なデザインの時計に贈られるゴールデンローズ賞を受賞したのは、クォーツショック真っ只中の70年代。

また、3大時計がラグジュアリースポーツという新しいジャンルの時計に挑んだのと同じ時期。1973年には、12角ベゼルが特徴的なSSスポーツウォッチ リビエラ を発表しています。

ボーム&メルシエの現在と未来

といったところで、ボーム&メルシエの歴史について、見てきました。

ちなみに、現在のラインナップ。多くは50年代~60年代に生まれたものが、90年代以降にリデザインされて登場したもの。

一部は近年更なるリニューアルがなされ、時代に合わせて変化するという姿勢は、リシュモングループ傘下に入った現在でも、受け継がれています。

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それに加え、かつて得意としていた複雑機構。2014年にトゥールビヨンを復活させており、技術が衰退していないことを証明。業界を驚かせました。

今後、私たちは時計に対しどんなニーズを示すのか。そして、ボーム&メルシエというブランドは、それをどう形にしていくのか。

時代と共に歩む時計。今後の活躍も楽しみです!