毎週1ワードずつ、時計の基礎知識・基礎用語をお伝えしていくコーナー。第三回目の今日は、『文字盤』について。またの名を『ダイヤル』とも言いますね。時計表側、盤面のことを指す言葉ですが、その素材や意匠は様々。ブランドごとにも個性があり、非常に興味深いものになっています。
カラー、素材、仕上げなど、特徴的なものを中心に、いくつかのモデルをピックアップして、解説していきたいと思います。(この記事は、ウォッチ買取応援団としてYoutubeにアップした動画の書き起こしです。)
目次
文字盤とは?
さて、このシリーズでは、過去に『インデックス』と『針』について、ご紹介してきました。本日ご紹介するのは文字盤。その役割は、『インデックス』を配置する土台であり、『針』が指し示す目盛を表示する場所であることです。
求められる特徴は、他のパーツと干渉しないよう、薄く平たいこと。そして経年使用で腐食しにくい素材または表面加工が施されていること。どちらも製造工程上容易に実現できるものではありませんが、逆に言うと、それ以外は自由です。
気難しいけど、扱う腕が一流であれば、真っ白いキャンパスのようなもの。そこにどんな絵を描くのか。自在に表現できるのが文字盤というパーツです。今回は文字盤の個性や違いについて、3つのパートに分けてご紹介していこうと思います。
・カラー
・仕上げ
・素材
この3つですね。それぞれ、違いが分かりやすいモデルをピックアップにて。モデルによって異なる個性も、比較しながら見ていきたいと思います。
文字盤カラーで変わる時計の印象
まずは、カラー。こちらの2つの時計。どちらも同じモデル。ロレックスのデイトナという時計です。左はホワイトダイヤル。右がブラックダイヤル。
文字盤のカラー以外、全く同じデザインなんですが、白か黒かだけで、ここまで表情が違ったものになります。
ホワイトは、明るく爽やかで、清潔感がある印象。ブラックの中に配置された白は、空白として目を惹きやすいものでもあるので、人の目に触れやすいという特徴もあります。
片やブラックは、重厚感があり、力強いデザインです。ブラックは収縮カラーなので、引き締まった印象も受けますね。
ブルー、シルバー、グレー
文字盤カラーは、その他にも多くのバリエーションが存在します。画像はロレックスのオイスターパーペチュアル。
レディースとメンズ、どちらの展開もあるモデルで、実に10色以上のカラーで展開されています。ロレックスの文字盤、あらためて見ると、本当に美しいですよね。
文字盤カラー、白、黒以外で一般的というか、よく見かけるのがブルーダイヤル、シルバーダイヤル、グレーダイヤルの3色。これらは大抵どのブランドでも見つけることが出来ます。ビジネスシーンに合わせやすいという点、広く普及している理由かと思いますね。
グリーンダイヤル
あと近年のトレンドでいうと、グリーンダイヤルがありますね。
画像左から、ロレックスのサブマリーナデイト、グリーン文字盤のバリエーション。パテック・フィリップのアクアノート。オーデマ・ピゲのロイヤルオーク・オフショア・ダイバー。そして、H.モーザーのパイオニア。
ブルーやグレーと違って、グリーンの時計は合わせる服選びに工夫が必要。と、思っていたんですが、最近見慣れてきたこともあってか、意外とどんな服でも合わせやすいのかも、とも思っております。笑右のH.モーザーは、グラデーションカラーであることも特徴的ですね。
カラーの仕上げ
ところでこのカラー、一体どうやって塗っているのかというと。その製造方法は主に3種類あります。
塗料を直接吹き付けるラッカー仕上げ。溶液の中に付けて表面に薄い金属膜を作るメッキ仕上げ。そして、真空状態で蒸着させるPVD仕上げ。いずれも一度の工程で仕上がるわけではなく、ロレックスの場合約60もの工程があるとのこと。
手間がかかってこそ、この美しさが実現されているんですね!
着色後の仕上げも様々!同じ色でも時計の顔は変化する
さらに、塗った後の仕上げ。同じブラックダイヤルでも、ご覧いただいている通り、仕上げ方が異なると、表情も変わってきます。画像はどちらもロレックスの時計ですが、左はベタ塗のブラック文字盤。右はサンレイ仕上げのブラック文字盤です。
いかがですか?同じ黒でも、表面の仕上げ方の違いで、結構印象変わりますよね!
このまま2つ目のパート、文字盤の仕上げの違いについて見ていこうと思います。先ほどのベタ塗なのか、サンレイなのかというところを、もっと大胆に表現した文字盤があります。
画像右から、彫り模様を施した文字盤。ブレゲ クラシック クロノメトリー。宝石で埋め尽くした文字盤。ロレックス デイデイト パヴェダイヤ。クロワゾネ七宝で絵画の様な美しさを表現した文字盤。パテック・フィリップ コンプリケーション。そして、くり抜いて機械部分を見えるようにした文字盤。ゼニス クロノマスター エルプリメロ フルオープン。
どれも個性的で面白いですよね!サラッと紹介してしまいましたが、これらの仕上げ、実はとても高い加工技術と、長い製作期間を要します。例えば、パテック・フィリップの場合、熟練の職人による200もの工程を踏んで完成されます。かかる期間は、なんと4~6か月というから驚きです。
仕上げの種類には、ブランドのアイデンティティになっているものもいくつかありますね。有名なのは、やはりオーデマ・ピゲのロイヤルオークでしょう。
タペストリーと呼ばれる彫り模様は、単に四角形が並んでいるだけではなく、よく見ると四角の上に曲線が、それ以外の部分にはドット模様が彫り込まれています。
四角形のサイズによって、プチ・タペストリー、グランド・タペストリー、メガ・タペストリーと3種類のラインナップがありますが、どれを見ても一目でオーデマ・ピゲのそれであるということが分かる仕上げです。
この超複雑な彫り模様は、専用の装置を用いて作られています。こちらは、先日オーデマ・ピゲのイベントに展示されていたその装置。
元の金型から、文字盤へと模様が転写されるような仕組みになっています。原理としては、製図の拡大縮小に用いるパンタグラフですね。その3次元金属彫刻版という感じでしょうか。
文字盤に使用される素材|真鍮、真珠、メテオライトなど
さて、3つ目のパートは、文字盤の素材について。先に紹介してきた個性豊かな文字盤たち。そのベース素材ですが、真鍮が主に使われています。ラッカーにしてもメッキにしてもPVDにしても、真鍮は色が乗せやすく、素地として扱いやすいという特徴があります。
真鍮の他、彫り模様を施す場合や、宝石をあしらう高級モデルなどには、ゴールド素地を使用するケースもあります。では、その他には、どのような素材が使われているのでしょうか。ご覧の通り、かなり個性的なものが並びます。
メテオライトは、本物の隕石。マホガニーは、天然の樹皮。ソーダライト、オニキス、マラカイトは、天然鉱石。白磁は焼き物ですね。画像のモデルは有田焼を使用しています。そして、マザーオブパールは、真珠母貝です。
この他にもまだあるかと思いますが、、、もう見た目からして特別なものであることがわかりますよね。天然の素材を使ったものは、個体差を楽しむこともできます。
例えばメテオライト。画像左は、ロレックス公式サイト掲載のデイデイト・メテオライト文字盤。右は、以前レビュー動画で撮影したデイデイト・メテオライト文字盤。
メテオライトの表情、違っているのがお分かりいただけるかと思います。ちなみに、メテオライトというのは、隕石の総称で、細かくは組成や落ちた場所などで分類されています。
ロレックスの場合は、その採取場所までの記載がありませんが、オメガのスピードマスター・グレーサイドオブザムーンでは、公式ページに『ナミビア産ギベオン隕石』と記載がありました。
ロレックスのものよりも、グレーがかった色合いのメテオライトが使われています。このように、模様のある天然石は、石ごとにも個体差がありますし、同じ石から文字盤を作ったとしても、石のどの部分から採ったのかによっても、模様に違いが生じます。同じ模様のものは2つとしてない。唯一無二を楽しめるのがいいですね!
まとめ
以上、本日は腕時計の基礎知識『文字盤』について、お届けいたしました。
時計屋さんに訪れた際は、文字盤の違い、そして針やインデックスとの組み合わせで、どんな表情が作られているのか。ぜひ細部までじっくりと眺めてみてくださいね!