2020.02.25

【基礎知識 vol.11】機械式 vs クオーツ式 vs スプリングドライブ|腕時計の基礎知識・基礎用語

更新

※この記事はウォッチ買取応援団としてYoutubeにアップした動画、「機械かクォーツか、はたまたスプリングドライブか。それぞれの特徴を比較|腕時計の基礎知識・基礎用語」の書き起こしです。

毎週1ワードずつ、時計の基礎知識・基礎用語をお伝えしていくコーナー。今回は、時計の『中身』のお話。ムーブメントと呼ばれる部分ですね。

目次

現在販売されている高級時計のムーブメントには、一般的に『機械式』と呼ばれるゼンマイ駆動のものと、『クォーツ式』という電池で動くものがあります。それに加えて、1999年以降は、両者を組み合わせた『スプリングドライブ』という、第3のムーブメントも登場しました。

この3つ、初心者の方でも名前くらいは聞いたことがあるのではないでしょうか。しかし、それぞれどんなものかと問われると、、、なんとなくしか把握されていない方も多いものと思います。そこで、今回の記事では、時計の精度や、価格、維持コストなど、それぞれ基本的な特徴をおさらいしながら、おおまかにどんな違いがあるのか、ご紹介していきたいと思います。

機械式、クォーツ式、スプリングドライブ

さて、早速ですが、それぞれの違い。まずは見た目の違いから、確認していきましょう。こちら、3つともグランドセイコーの時計に使われているものです。

画像左は、機械式。名前の通り、メカメカしい。金属の地金に、びっしりと詰め込また細かいパーツ群。ゼンマイを動力源にして、それらが噛み合い、動くことで時間を表示します。

中央は、クォーツ式。電池とコイルを用いて、電気信号によって時を刻みます。こちらは、メカというより、コンピューターのような見た目が特徴。

そして右は、スプリングドライブ。一見すると、機械式に似ていますね。ですが、よく見るとコイルが使われていることが確認できるかと思います。機械動力を電気信号に変えて、時間を表示する構造です。

それぞれの比較(一覧表)

続いて、それぞれの特徴について、見ていきたいと思います。ざっくり表にまとめてみました。ひとつずつ、詳細確認していきましょう。

機械式

まずは、機械式。ゼンマイを動力源にして、そこから複数の歯車を介して、時間を表示する構造です。この原理は、16世紀初頭に発明され、その後小型化や精度向上などが図られ、現代まで進化を遂げてきたものです。

今回ご紹介する3タイプのムーブメントでは、もっとも古い歴史を持つのが、この機械式ですね。古い歴史を持つというより、時計の歴史そのものが、機械式の歴史であると言っても過言ではないと思います。

長い歴史の中で、伝統的な芸術作品として手作業での製造が続いているものと、生産技術の進歩によって大量生産が出来るようになったものとがあります。そのため、価格はピンキリ。1万円~上は億超えまで存在します。ピンの方は、所有する喜びを強く感じられるものかと思います。キリの方は、気軽に機械式を楽しめるのがいいですね!

価格に関わらず、パーツひとつひとつに対し、正確なサイズ、正確な位置取りで設計されており、その動きを見て楽しむことが出来るということも、機械式の良い所です。

機械式の時計を動かすには、ゼンマイの巻き上げが必要になりますが、これを手間と感じるか、楽しみと感じるかは人それぞれだと思います。モデルによって差がありますが、フルに巻き上げた状態から2日~3日動くようになっているものが多いので、週末外して放っておくと、月曜には止まっていることも。その都度、ゼンマイを巻いて、時間を合わせてという作業が必要になります。

そしてこれも気になるポイント。機械式の大きなメリットでもあり、同時にデメリットにもなるのが、定期メンテナンス。機械式は、使っているうちに、部品が摩耗したり、油が切れてしまったり、だんだんと動きが悪くなってきます。そのため、数年に一度、分解清掃、オーバーホールとも言いますね、それを行う必要があります。ブランドやモデルによって様々ですが、そのためのコストが、おおむね4万円~10万円ほどかかってきます。機械式は、定期的なメンテナンスや、修理を行うことで、ほとんど一生使えてしまうものですが、それなりに費用がかかるということも覚えておきましょう。

クォーツ式

続いて、クォーツ式です。クォーツというのは、水晶で出来た小さなパーツのこと。電池を用いて、そこに電気信号を送ることで時間に変換するのが、クォーツ式時計です。

1969年に日本のブランド セイコーによって小型化がなされ、腕時計として登場したのが始まりで、1970年代~80年代にかけて、スイスの腕時計業界に大きな影響を与えました。
この出来事は、後にクォーツショックと呼ばれるようになり、時計の歴史を語るうえで欠かせないストーリーになっています。

クォーツ式最大のメリットは、コスパの良さ。購入時も機械式と比べて安価です。例えばカルティエのサントスという時計。機械式は定価70万円台ですが、クォーツ式であれば40万円台で買うことができます。これ以外の高級時計でも、クォーツ式であれば、100万円超えることは滅多にありません。

また、維持費として定期的に必要な費用も、電池代とその交換費用くらい。不調になってしまったとしても、回路が壊れていない限りは、歯車や針の交換、注油程度のメンテナンスで済みますから、数年に一度、数千円程度で済んでしまいます。

さらに、クォーツ式ならではの強みとしてあるのが、精度の高さ。有名どころでいうと、冒頭でお見せしたグランドセイコーのクォーツ式ムーブメントは、年差プラマイ10秒。機械式ですと、どんなに精度が高いものでも、1日に数秒のズレが生じます。

に対して、クォーツ式は、一般的なものでも、月に15秒~30秒程度しかズレません。グランドセイコーのように、年間で10秒ほどしかズレないレベルで作ることも出来る。これ、凄くないですか?

ちなみに、今現在世界最高精度と言われているのは、シチズンの ザ シチズン エコ・ドライブ キャリバー0100 という時計です。こちらの時計、なんと年差プラマイ1秒!驚異的です!

コスパと精度という、2つの大きなメリットに対して、クォーツ式にも弱点があります。それが、寿命の短さと、パワーの弱さ。メンテナンスや修理を繰り返すことで、ほとんど一生使える機械式に対し、クォーツ式には寿命というものがあります。ブランドやモデルによって、ある程度の違いはあるものの、短いものだと5年程度。長いものでも30年ほどと言われています。一生ものの時計とするには、少々荷が重いです。

また、パワーですが、ゼンマイで得られる動力に対して、電池から得られる動力は弱く、太い針を動かすことが困難です。太く力強い針を持つ、本格的なダイバーズウォッチや、パイロットクロノグラフのようなデザインが、物理的な理由で作れない。デザインに制約が生じてしまうことも、弱点ですね。

スプリングドライブ

さて、ラストは第3のムーブメントと呼ばれるスプリングドライブ。動力源はゼンマイ。それを電気信号に変えて時間を表示します。機械式の動力と、クォーツ式の時間表示を合わせた構造ですね。1999年、グランドセイコーによって開発されました。

スプリングドライブのメリットは、まさのこのハイブリット構造にあります。まず、ゼンマイを動力源にしているということ。パワーがあり、太い針を動かすことが可能であり、デザインの自在性が保たれています。そして、電気信号で制御されているということ。これにより、クォーツ式に近い精度、月差でプラマイ15秒という高精度を実現しています。

ゼンマイによる力と、電気信号による時間の制御。このタッグは、美しいスイープ運針からも感じることができますね。

反対にデメリットはというと、セイコーでしか作っていないということ。昨年20周年を迎えたとはいえ、まだまだ選べるモデルが少ないのが現状です。機械式やクォーツ式に比べて、厚く大きな作りの時計が多いことからも、まだまだ発展途中なんだろうなとも思いますね。これから小型化、多機能化が進んでくれるといいのですが、、、期待したいところですね。

また、セイコーしか作っていないというのは、メンテナンスの際にも、良し悪しあるかと。スプリングドライブは、機械部品の他に、電子部品も多く使われています。そのため、特別な訓練を受けた時計技師にしか触れない代物です。

メンテナンスの際は、メーカー頼みになってしまいます。メーカーメンテは安心できますし、頼れる存在ではありますが、順番待ちがネック。オーバーホールで数か月待ちとかになってくると、不便に思えてしまいますよね。

まとめ

以上、本日は機械式、クォーツ式、そしてスプリングドライブと、3つのムーブメントの基本的な特徴や、おおまかな違いについて、ご紹介いたしました。どれも一長一短。それぞれに魅力があるものだと思います。ご購入の際は、ぜひどれが使われている時計なのか、気にしながら選んでみてくださいね!