2020.07.22

【基礎知識 vol.17】パワーリザーブとは|腕時計の基礎知識・基礎用語

更新
基礎知識_200428_パワーリザーブ

※この記事はウォッチ買取応援団としてYoutubeにアップした動画、「最近は3DAYSが主流に!パワーリザーブとは|腕時計の基礎知識・基礎用語」の書き起こしです。

腕時計初心者の方向けに、毎週1ワードずつ、時計の基礎知識・基礎用語をお伝えしていくシリーズ。今回は、『パワーリザーブ』について、お伝えして参ります。カタログなどに記載されている基本スペックの1つですね。

機械式時計は、巻きあげたゼンマイがほどけていく力を利用して動いています。パワーリザーブというのは、その動ける時間の残量のことを指す言葉。「最大巻き上げ時48時間」などと表記します。

実用性能として、非常に重要な数値ですよね。近年はロングパワーリザーブ化といって、各社工夫を凝らして、その時間延長を図っています。

今回の記事では、パワーリザーブの基本構造と、スペックアップのため、各社どんな工夫をしているのか。その辺りについて、ご紹介していきます。

目次

↓動画でもご覧いただけます。

パワーリザーブの構造

では、まずはパワーリザーブとは何かということについて。

冒頭で触れた通り、機械式時計があと何時間動けるのか、それを表した数値です。

パワーリザーブの構造

今お見せしている画像は、ロレックスのムーブメントcal.3135です。香箱というところに、機械式時計の動力源である主ゼンマイが入っています。

それを手動または自動で巻きあげ、そのほどける力を他の歯車に伝えることで、時計が動くという仕組みになっています。

主ゼンマイとは

こちらが主ゼンマイです。

主ゼンマイ

プレート状の金属が、ぐるぐる巻きになっているパーツです。

パワーリザーブとは即ち、このゼンマイをフルフルで巻き上げた時、あと何時間時計を動かすことが出来るのか。それを時間単位で数値化したものです。

実用ブランドおけるパワーリザーブは、フル巻き上げ状態で40~50時間が一般的。大体丸2日くらいが主流でした。

近年は3日間が主流に

しかし、最近は実用性能の向上を図るブランドが増え、70時間を超えるものが主流になりつつあります。

以前は3Daysなどと呼ばれ、特筆すべきスペックでしたが、現在はそれが普通になってきているんです。

ロレックスにしてもオメガにしても、元々40~50時間だったパワーリザーブを、ここ数年で70時間以上に延長しています。

で、これが今回お話したいメインの話題です。

なぜパワーリザーブを伸ばすのか

では、なぜ各社、パワーリザーブを伸ばす方向に動いているのか。これは単純に利便性の向上を図るためです。

例えば、パワーリザーブが40時間の時計の場合金曜の夜に外して放置しておくと、日曜の夜には止まってしまいます。

すると、月曜出勤時に着けようと思うと、ゼンマイを巻いて、時間を合わせて、という一手間が必要になる。

ところが、パワーリザーブが70時間になるとどうでしょう。

金曜の夜に外して放置しても、月曜の朝はまだ動き続けている。調整の必要がなくなるというわけですね。

どうやってパワーリザーブを伸ばすのか

さて、では、パワーリザーブ、どうやって伸ばすのか。

どうやってパワーリザーブを伸ばすのか

構造上、もっとも単純な方法は、ゼンマイの長さを伸ばすことです。ゼンマイが長くなれば、当然ながらほどける力も長く持続され、結果、パワーリザーブも伸びることになります。

が、しかし、この方法には大きな欠点が。それは、ゼンマイが長くなると、香箱も大きくしなければならないということ。

合わせて、他の歯車も大きくする必要が出てきます。

ゼンマイを長くするだけではダメ

すると、1つ1つの歯車を回転させるために必要な力も増してしまう。大きな歯車を動かすには、ゼンマイの力をたくさん消費しなければならない。

せっかくゼンマイを長くして、力を貯める量を増やしても、その分無駄な力が必要になり、結果パワーリザーブはあまり伸びないということになります。

これじゃ無意味ですよね。

また、歯車1つ1つが大きくなるということは、ムーブメント全体のサイズもアップするということ。となると、時計のケース径も大きくすることになり、デザインバランスが崩れてしまいます。

これも大きなデメリットになります。

ツインバレルという方法

じゃあ、どうすればいいのか。方法は大きく2つです。

1つは、香箱を増やす方法。つまりゼンマイを複数本にするということ。ツインバレルやトリプルバレルと呼ばれる方法ですね。

ツインバレルという方法

引用元: https://www.panerai.com/ja/

画像の時計は、ツインバレルを採用したモデル。パネライのラジオミールGMT。72時間のパワーリザーブを有しています。

香箱を2つにするには、構造上機械に厚みが出てしまいますが、パネライは自動巻きローターを小型化したことで、その課題をクリアしています。

利便性を求め、パワーリザーブを延長するということは、他の部分の調整も必要になる。単純な構造に見えて、実は非常に高度な技術が要求されることなんですね。

縦置きバレルをデザインに

ちなみに、香箱を増やしたケースには、こんな時計もあります。

縦置きバレルをデザインに

引用元: https://www.hublot.com/ja/

ウブロ・ビッグバン MP-11 14Days。その名の通り、14日間(336時間)という桁違いのパワーリザーブを搭載したモデル。

7個の香箱を連結させ、縦向きに配置。その構造すらデザインの一部にしてしまうという、異端児ウブロらしい作品です。

香箱1つで延長する

パワーリザーブの延長方法、2つ目は、香箱サイズを変えずにゼンマイを延長。さらに歯車を動かすための力を小さくする方法。

これは、非常に高度な技が必要になるため、できるブランドが限られています。

例えばロレックスが2016年から使用している32系ムーブメントには、この方法が用いられています。

ロレックスの技術

ロレックスは香箱の内壁を薄くすることで、ゼンマイを延長することに成功。

ロレックスの技術

引用元:
https://www.rolex.com/ja/

さらに、脱進機という、ゼンマイから伝わる動力を調整するパーツ。この形状を変更したことで、力のロスを軽減し、パワーリザーブを延長しています。

雲上ブランドはパワーリザーブの技術も凄い

そして、この方法をさらに極めるとどうなるのか。

雲上ブランドのパワーリザーブ延長の技は、やはり別格です。

雲上ブランドの技術

引用元:
https://www.alange-soehne.com/ja/

こちらはA.ランゲ&ゾーネのサクソニア・ムーンフェイズ。2桁表示の日付とムーンフェイズという、2つの複雑機構を備えた自動巻きモデルながら、ケースサイズは40mm径9.8mm厚と薄型です。

それでいて、パワーリザーブは72時間という。一体、どうやっているのでしょうか。

実はここには、雲上ブランドならではの工夫があります。それが、歯車1つ1つを丁寧に面取りし、磨き上げるということ。

そうすることで摩擦係数を減らし、より小さな力で時計を動かすことが出来るようになります。

そして、力のロスが少なくなる分、ゼンマイを薄く長く作ることができるため、香箱のサイズを変えずとも、パワーリザーブが延長されるというわけですね。

雲上ブランドは針にも工夫が

以前『針』の回で取り上げたブレゲ針も、実はパワーリザーブに貢献しているパーツです。

雲上ブランドは針にも工夫が

引用元:https://www.breguet.com/jp

画像は、ブレゲ クラシック 5277というモデル。38mm径8mm厚という超薄型ながら、パワーリザーブは96時間という優れものです。

ブレゲ針は、1783年に天才時計師アブラアム=ルイ・ブレゲ本人によってデザインされたもの。その目的は、機械のみではなく、文字盤側からも極力無駄をなくすということでした。

針先がくり抜かれた円形構造は、エレガントな印象を損ねず、視認性を確保、さらに軽量化にも貢献しています。

針が軽量になれば、動力は小さくて済む。非常に原始的なアプローチではありますが、確実に効果があるパワーリザーブ延長方法です。

まとめ

といったところで、本日は「パワーリザーブ」についての基礎知識、お届け致しました。

現行の時計を買うのであれば、やはり70時間は欲しいところですね。特に自動巻きの時計は、止まらない前提で着けているので、止まってしまった時の一手間が億劫。と思うのは、私だけではないはず。

様々な工夫を凝らし、パワーリザーブを延長してくれている、開発者の皆さんには本当に感謝です。