2020.12.06

パテックフィリップ カラトラバの魅力 定番故にわかりにくいモデル定義とは

更新

※この記事はウォッチ買取応援団としてYoutubeにアップした動画、「キングオブドレス カラトラバの魅力!新作に見るパテックの思惑 カラトラバらしさとは」の書き起こしです。

ラウンド型時計のお手本とも言われる名作 パテック・フィリップ カラトラバ。ド定番であるが故、カラトラバとはどんな時計か?と聞かれると、、、ガチガチのドレスウォッチ?いや、そうじゃないものもあるよな、、、共通しているのは、ラウンド型であることだけか?

こんな感じで、カラトラバらしさというのは、非常に掴みにくい。そこで今回の記事では、モデルの歴史と進化のストーリーから、カラトラバとは一体何なのかということに迫って見たいと思います。

目次

2020年 限定1,000本のみで発売された Ref.6007A-001 とは

では、まずは本題に入る前に、最新作カラトラバについてお伝えしておきます。

モデル名は、カラトラバ6007A-001。カラトラバでは珍しく、ステンレススチールのケースを用いています。ケース径は40mm、厚さは9.07mm。防水性能は30m。

特徴的なのは、文字盤のデザイン。これもカラトラバでは珍しいブルーを採用。中央の彫り模様、その周りにはレールウェイ、そしてアラビアインデックス。若々しく、スポーティーな顔立ちです。

カラトラバ001

引用:https://www.patek.com/

ケースバックは、サファイアクリスタル製。センターローターの自動巻きキャリバー324SCの動き、覗き見ることができます。

定価は税別で309万円。世界限定1,000本。ジュネーブの新工場PP6完成を記念して、発表されました。

新工場完成記念というのは分かりますが、なぜ今このデザインなのか。同ブランドの人気モデルノーチラスやアクアノートが牽引している、スポーティーウォッチのジャンルを強化したいという狙いも、少なからずあったものと思います。

しかし、遡ると2000年代初期に現CEOティエリー・スターンがこんな言葉を残していました。

『20代~30代の人にも手が届く魅力的な時計として、カラトラバの開発に注力している。』

実は今ほどスポーティーウォッチが注目される以前から、若々しいデザインのカラトラバを作ろうとする動きはあったんですね。今回の新作、まさにこの言葉を形にしたものなのではないでしょうか。

カラトラバの誕生は1932年

さて、新作の情報を確認したところで、本題のカラトラバについて。一体どんなモデルなのか、モデル誕生の歴史から見ていきましょう。

カラトラバの初代と呼ばれるモデル、Ref.96(通称:クンロク)の誕生は、1932年。パテック・フィリップというブランドが、創業一家からスターン兄弟の手に渡ったのと同じ年に発売されました。

カラトラバの誕生は1932年

引用:https://www.patek.com/

実はパテック・フィリップ、一度経営難に陥っており、その時文字盤のサプライヤーだったスターン兄弟が経営を引き継ぐ形で、今に至っています。この辺りの詳細は、パテック・フィリップの歴史にてお伝えしておりますので、ぜひそちらでご確認ください。

カラトラバの誕生は、ピンチに陥ったブランドが、起死回生の一手として最初に挑んだものだったんですね。

ちなみにカラトラバと呼ばれるようになったのは、1980年代以降になってからの話。1932年の発売当時、既にパテック・フィリップはカラトラバ騎士団(12世紀~15世紀に活躍したスペインの騎士団)のエンブレム『カラトラバ十字』をロゴとして使用していました。

それがリューズに刻まれていたことから、パテック・フィリップの社内でのみ、愛称として『カラトラバ』と呼んでいたそうです。

初代カラトラバ Ref.96の特徴

話を戻して、1932年登場の初代Ref.96。大きな特徴は、ラウンド型ケースであるということ。いや、普通じゃん!と言いたいところですが、当時はまだ、ラウンド型の市販腕時計が少なかった時代です。

カルティエ サントス

引用:https://www.cartier.jp/

例えばRef.96登場以前の有名モデルはというと、1904年のカルティエ・サントス。1919年のカルティエ・タンク。1926年のロレックス・オイスター。そして、1931年のジャガー・ルクルト・レベルソ。

サントス、タンク、レベルソは角形。オイスターも当時はまだクッション型でした。

カラトラバの定義とは

そして、Ref.96、もう一つ特徴的なのは、ラグ形状。ラグというのは、ケースとベルトを繋ぐ部分のところ。Ref.96のラグは、当時ラウンド型では珍しい、ケース一体化のラグが使用されていました。

角形の3モデルは一体型ですが、ラウンドに最も近いオイスターを見ていただくと、一体型ではなく、ワイラーラグという仕様であることがわかります。

ロレックス オイスター

ロレックス オイスター 引用:https://www.rolex.com/

と、このように初代Ref.96の特徴、当時は斬新なものではあったんですが、今となってはそれが当たり前になっていますよね。カラトラバが丸型時計の見本と言われる所以は、ここにあります。

パテック・フィリップは、新しくもあり不変なものとして、カラトラバを生み出したのです。まさにマスターピースとはこのこと。

その後、カラトラバは数多くのバリエーションを展開していますが、どれも特徴は初代と同じ。丸いケースで、見やすい時計というもの。ただ言い換えると、それしかルールがないということにもなります。冒頭で触れた通り、カラトラバらしさとは何かということが、非常に曖昧なのはそのためです。

現行ラインナップを見るだけでも、カラトラバというモデルが如何に幅広いものなのか、感じていただけるかと思います。

Ref.5196

まずはこちら、Ref.5196。初代Ref.96からの直系後継モデル、手巻きムーブメント搭載。バーインデックスにドルフィン針、6時位置にはスモールセコンド。そして角ばった力強いベゼルと、ケース一体型のラグ。

Ref.5196

引用:https://www.patek.com/

ケース径は6mmサイズアップしており、モダナイズこそされてはいますが、初代のデザインと瓜二つですね。現行カラトラバで、最も王道なのがこの5196シリーズです。

Ref.5227

続いて、Ref5227。こちらは自動巻きムーブメントを搭載したモデル。3時位置にデイト表示があり、秒針はセンター配置になっています。

Ref.5227 -1

引用:https://www.patek.com/

このモデル、特徴的なのはハンターケースと呼ばれる、裏蓋の仕様。シースルーバックの上に、開閉式の金属カバーが付いているという作りになっています。

Ref.5227 -3

引用:https://www.patek.com/

また、一見すると先ほどの5196と似通っていますが、よく見ると全然違う。こちらのほうがベゼルは薄く、よりドレッシーな印象に。ラグも良く見ると側面が大胆にシェイプされたデザインになっており、曲線美を感じることができます。

Ref.5227 -2

引用:https://www.patek.com/

Ref.7200

続いて、Ref.7200。マイクロローター搭載の小型自動巻きモデル。かつてパテック・フィリップが将校用に作った時計『オフィサーウォッチ』を思わせる文字盤デザインが特徴です。

Ref.7200

引用:https://www.patek.com/

ブレゲ数字のインデックスとスペード針、丸みを帯びたベゼルの組み合わせが、とっても優美。ケースデザインを邪魔しないよう薄く作られたラグは、横からビスを通してベルトを留める仕様になっています。

Ref.4978

続いて、Ref.4978。ダイヤモンドがセッティングされた高級モデル。ダイヤモンドが目立ち過ぎてわかりにくい部分かと思いますが、このモデル、見て欲しいポイントは、やはりラグです。

Ref.4978 -1

引用:https://www.patek.com/

Ref.4978 -3

引用:https://www.patek.com/

ケースの丸さを際立たせるため、ケース裏にビスで止めるという構造になっています。結果、ベルトの付け根がケース裏に隠れる形になるので、正面から見た際にベルトとケースの隙間が見えない。

技ありのラグ構造ですね!

Ref.5212

続いて、Ref.5212。ウィークリーカレンダーを搭載したコンプリケーションモデル。これもカラトラバなんですね。

複雑機構搭載モデルなので、文字盤に目盛が多くて騙されそうですが、実は初代同様にバーインデックスとドルフィン針が使われ、ラグもミドルケース一体型になっています。

Ref.5212

引用:https://www.patek.com/

初代と明確に異なるのは、ベゼルの形状。角ばったベゼルを用いた初代に対し、こちらはテーパード。ケースから離れるにつれて細くなるという、スタイリッシュなデザインになっています。

Ref.6006

続いては、Ref.6006。ポインターデイトを搭載したモデル。

Ref.6006

引用:https://www.patek.com/

ミドルケースに一体化されたラグ、ドーム型のベゼル、10角形のリングが付いたシースルーケースバックと、この度発売された限定モデルRef.6007のベースは、おそらくこのモデルです。

まとめ:新作に見るカラトラバらしさ

丸型ケースで、見やすい時計。ここをずらすことなく、ベゼルやラグ、文字盤デザインにおいて、非常に高いレベルでアレンジを加えていることが、お分かりいただけたのではないでしょうか。

そして改めて、その視点を持って新作カラトラバを見てみると、どうでしょう。基本設計は、直前にご紹介したRef.6006と同じ。しかし、新作Ref.6007では、ステンレススチールケースを用いているということ。

そして、アラビア数字インデックスがアップライトになっているということが、新たなアレンジとして追加されています。

新作に見るカラトラバらしさ

引用:https://www.patek.com/

さらに面白いのは、インデックスに夜光が塗られているという点です。ドレスウォッチのカラトラバで、夜光インデックスというのは、大胆過ぎるアレンジ。

新作Ref.6007、賛否両論ありそうなところですが、これぞ現代のカラトラバ!と、私は敬意を表したい。カラトラバというモデルの幅広さ、可能性をさらに広げた、傑作なのではないでしょうか。

夜光カラトラバ

引用:https://www.patek.com/