2020.02.26

新作クローズアップ!タグ・ホイヤー カレラ 160周年記念モデル

※この記事はウォッチ買取応援団としてYoutubeにアップした動画、「60年代のクロノグラフが復活!ブランド160周年を祝う特別なカレラ|復活に込められた思いとは!?」の書き起こしです。

本日ご紹介するのはこちらの時計。タグ・ホイヤー カレラ 160周年 シルバー 限定エディション。2020年6月発売予定のモデルです。160周年を迎えるタグ・ホイヤーが、節目を飾るために、本気のカレラを発表してきましたね。

目次

公式サイトには、

“ 「カレラ」コレクションの類い稀なヘリテージとタグ・ホイヤーの最新のイノベーションを融合させたユニークなクロノグラフ。 “

と紹介されています。

デザインは、1960年代に販売されていたカレラ2447Sをオマージュ。ブランドファンはもちろん、カーレース好きの方にとっても、待ち遠しいモデルなのではないでしょうか。

そこで今回は、記念すべきモデルの概要、ストーリー、ムーブメント、これら3点に触れながら、その魅力をお伝えしていきます。

モデル概要

ではまずは、モデルの概要からお伝えしていきます。

基本機能は時、分、秒にクロノグラフ。シルバーの文字盤とバーインデックス。ステンレス製39mmのケースに、ベルトはブラックアリゲーター製。

価格は6,450ドル。日本での定価は未発表となっていますが、動画公開時の円換算で約70万円となります。発売は2020年6月を予定しており、限定本数はブランド創業年と同じ数字の1,860本。

ムーブメントは、自社製キャリバー ホイヤー02を搭載しています。裏蓋はシースルーになっており、ローター部分には160周年を記念するロゴがエングレービングされています。

カレラシリーズは、1963年に登場していますが、初代から変わらず引き継がれている共通のアイデンティティがあります。それが、視認性へのこだわり。

画像左が今回発表になった新作モデル。そして右は、デザインの元となった1960年代に作られたカレラ2447S。

どちらもベゼルが薄く作られており、文字盤が大きく見やすい作りになっています。文字盤の外周部分にも目盛を記載し、パッと見た際でも読みやすいよう配慮されています。

今回の新作では、2447Sのデザインを忠実に再現しながらも、さらに視認性に磨きをかけていますね。文字盤サイズを大きくしたり、インダイヤルを一段低くしたり、インデックスのサイズを大きくしたり。より細部にまでこだわり、視認性を追求していることが分かります。

ではなぜ、カレラはここまで視認性にこだわるのかというと、その答えは、モデルの誕生背景にあります。

カレラ誕生のストーリー|生みの親ジャック・ホイヤーとは

初代カレラの登場は1963年。その開発に大きく関わったのが、この人物。タグ・ホイヤー4代目の当主、前名誉会長のジャック・ホイヤー氏です。

ジャックは、学生時代に電気工学を専攻し、その後渡米。マーケティングを学び、26歳の時にホイヤーに入社します。ジャックは、なぜカレラを開発するに至ったのか、というと、、、

実はジャック、レーサーとしても活動しており、ホイヤーでの仕事の傍ら、自らドライバーとしてラリーカーのレースに出場することもありました。その活動の中で、レーサーとして、そしてエンジニアとして、心動かされた事件が2つあったのです。

1つは彼自身が出場したレースでストップウォッチを読み間違え、負けてしまったこと。もう1つは、死者を出すほどの過酷なカーレース「カレラ・パンアメリカーナ・ラリー」との出会いです。

1958年。ジャックは、スイス国内で開催されたラリー参加しました。途中まで順調に1位を走っていた彼の車。しかし、ゴール直前でまさかの後退。結果、3位となってしまいました。

敗戦の要因は、ダッシュボードストップウォッチの読み間違えによる、ペース配分のミス。ラリーカーの振動の中でストップウォッチを読み取ることは、非常に困難だったそうです。後にこの出来事を彼は自伝でこのように語っています。

「このミスは私を激怒させた。また同時に、当時のオータヴィア ストップウォッチは、見にくく、混乱を招き、またスピードを出しているラリーカーの中では、正しく読み取ることが極めて難しいと知った。」

伝説のレース カレラ・パン・アメリカーナ との出会い

ジャックは敗戦したレースの後、社に戻るなり、機械メーカー・デュポア デプラ社と新しい車載ストップウォッチの開発をスタート。その時に生まれたのが、伝説のダッシュボードウォッチ「モンテカルロ」です。

モンテカルロは、6時位置に大きなデジタル式の12時間積算計を持ち、レース中の車内でも十分な視認性が確保されたものでした。

レース敗戦後、即新しいものを開発するというスピード感。視認性の悪い計器、そしてそれを善しとしてきてしまった自分の甘さへの苛立ちがどれほどのものだったのか、、、共感できます。

こうして、レース計器において、視認性がいかに重要かということを身にしみて実感したジャック・ホイヤー。こんな経験があるからこそ、数年後に手掛けるカレラの開発においても、視認性を重視したのは必然の流れのように感じますね。

さて、車載計器の視認性の悪さから、レースでの苦い経験をし、新しいダッシュボードストップウォッチを作り出したジャック・ホイヤー。1962年には、伝説的なカーレース「カレラ・パンアメリカーナ・ラリー」の存在を知ります。

このレース、いったいどんなものだったかというと、1950年代前半にメキシコで行われていたもの。約3,500km、日本列島往復分と同じ距離を5日~8日間をかけて走り抜けるレースです。

コースと呼ぶには荒すぎる、舗装されていない荒野を約1週間、車で走り続ける。「世界でもっとも過酷なレース」と呼ばれていたそうで、時には80人を超える死者を出したこともあったとのこと。

そんな超過酷なレースの存在を知ったジャックは、どんな思いを巡らせたのでしょうか。

結果、ジャックはレースに参加することはなかったんですが、チャレンジしてみたいという好奇心、命を賭してレースに臨む男達への敬意、そんな大会へ自身も何らかの形で貢献したいという畏怖、、、そんな気持ちが入り乱れた複雑な想いを抱いていたのではないでしょうか。

その熱い気持ちと、レーサーへのリスペクトを、腕時計という形で表現したのではないかと。死人が出るほどの過酷なレースに出場するレーサーに向けて、読み取りやすく、安全に記録にチャレンジできるような腕時計を作る。レーサーに使ってもらうことで、俺もレーサーと一緒にチャレンジするんだ!そんな思いがあったのではないか。と、勝手ながら想像しています。

カレラというモデル名は、この「カレラ・パンアメリカーナ・ラリー」から付けられたものです。このレースへの思いがいかに強かったか、想像に難くありません。

こうして生まれたカレラシリーズ。多くのレーサーに愛されつつ、1980年代まで複数のモデルを発表していきます。

しかし、この時期タグ・ホイヤーはクォーツショックの流れもあり、業績不振に陥っていました。1982年にはピアジェ傘下に入り、ジャックは社長から退任。その後1985年にはTAGグループからの資金援助を受け、このときからブランド名がタグ・ホイヤーとなりました。そして、このタイミングでカレラの歴史も一時的に途絶えてしまいます。

クォーツショックからの復活

カレラが復活したのは1996年のこと。クォーツショックの後、機械式時計の価値が再評価され、他のブランドが続々と機械式時計の製造を再開していったのが、1980年代です。なので、少し皆から遅れをとっての復活ということになりますね。

カレラの他、モナコとオータヴィアも、一時的にラインナップから消えていたので、おそらく、TAGグループから資金援助を受けてはいるものの、まだ自由に作りたいものを作れる状況ではなかったのかもしれませんね。

90年代に入り、F1の公式タイマーとして活躍するなど、徐々に業績を取り戻してからの、再スタートといった感じだったのではないかと思います。

そして1996年。退任していたジャック・ホイヤーも交えて開発が行われ、新生カレラが登場。見事復活を遂げた名作は、自らの生みの親であるジャック・ホイヤーをブランドの名誉会長へと押し上げました。

こうして歴史を振り返ってみると、なかなか熱く、男気のあるモデルなんですね。あらためて、カレラいいモデルだなって思います。

自社製キャリバーホイヤー02とは

さて、話題は2020年6月発売の限定モデルに戻しまして、注目すべきポイント!ムーブメント、ホイヤー02についても、その魅力をお伝えしていこうと思います。

ホイヤー02は、2018年に発売されたオータヴィアの限定ヘリテージモデルにも搭載。2019年には、モナコの新作にも採用された自動巻きクロノグラフムーブメントです。

パワーリザーブは80時間。スイッチは、ボタンを押してからの反応が良いコラムホイール式。クロノグラフに動力を伝える部品は、垂直クラッチを採用しています。

垂直クラッチは、針飛びがなく、操作に忠実に動いてくれるという機能的なメリットと、ムーブメントのサイズが横方向に小さくできるという、構造上のメリットがあります。新作カレラへの採用理由は、後者ほうが大きいように思えます。

1960年代のオマージュデザインということで、当時のサイズ感に近づけることは、性能強化以上に重要なポイントだったのではないかと。ホイヤー02の特性を活かしつつ、視認性も確保できるギリギリのサイズを攻めたのではなかろうかと。

自動巻きクロノグラフという複雑機構でありながら、39mm径という小ぶりなケースが採用できたのは、新たに垂直クラッチを使ったからこそできた技だと思います。

まとめ

以上、長々とお伝えしてまいりましたが、ブランド160周年モデルの魅力、感じていただけたかと思います。6月の発売が楽しみですね!

最後になりますが、ちょっとした予想もお伝えしておきます。実はカレラの初期モデル、色違いでブラックのバリエーションもありました。こちらがそのモデル、2447Nです。

160周年記念モデルは、今のところシルバーのみが発表されていますが、ブラックの追加発表もありそうじゃないですか?あるとしたら、4月のバーゼルワールドで発表か!?ちょっと期待しちゃいますね!