2020.04.10

【基礎知識 vol.15】GMTとは|腕時計の基礎知識・基礎用語

※この記事はウォッチ買取応援団としてYoutubeにアップした動画、「GMTウォッチとは(24時間表記と時差を示す時計はどのようにして生まれたのか)|腕時計の基礎知識・基礎用語」の書き起こしです。

腕時計初心者の方向けに、時計の基礎知識・基礎用語をお伝えしていくシリーズ。今回は、『GMT』について、お伝えしていきます。腕時計におけるGMTは、時差がある2地点もしくは3地点の時間を、文字盤内で同時に読み取る機能のことを言います。

他国の時間が知れるというロマンと、大きな針のデザインアクセント。ダイバーやクロノグラフに並ぶ、人気のジャンルですね!今回は、GMT機能がいつどんな理由で生まれ、どう進化してきたのか探りつつ、その魅力をたっぷりお伝えしていきます。

目次

GMTとは?

では、まずはGMTとはなにか、についてお話していきます。GMTとは、そもそも腕時計の用語ではなく、一般的な言葉です。イギリス ロンドンにあるグリニッジ天文台の時間を基準に、そこから何時間の時差があるのかを表すもの。例えば日本時間の場合、ロンドンとの時差はプラス9時間。GMT+09:00という風に表されます。

しかし、冒頭でもお伝えした通り、腕時計におけるGMTは、これとは少々意味が異なります。ロンドンには限定されず、時間帯が異なる2地点または3地点の時間を、同時に読むことができる機能のことをGMTと呼んでいます。

さて、先ほどなぜ一般用語としてのGMTの説明をわざわざしたのかというと、そのキーワードは、イギリス ロンドンというところにあり。腕時計としてのGMTを説明するには、ロンドンに標準時が置かれた背景を知る必要があるんです。

大航海時代に生まれた海上時差

標準時という概念が生まれたのは、18世紀初頭、大航海時代にまで遡ります。船乗りたちは、安全に航海を進めるため、自船の位置を正確に知る必要がありました。そこで用いられたのが、船の揺れを受けても精度が保てる、マリンクロノメーターという小型時計でした。

マリンクロノメーターの誕生背景については、ブレゲ・マリーンの歴史でまとめておりますので、詳細はそちらをご覧ください。

ここでは簡単に端折ってお伝えしますが、海難事故が多すぎるあまり、経度に対する取り決めが厳しくされたのが1714年。そこから、フランスとイギリスの科学者や時計師たちが開発に挑み、ようやく実用化されたのは1775年。先に実用化にこぎつけたのは、イギリスでした。

イギリスの船乗りたちは、出航前に時刻を合わせたマリンクロノメーターと、航海時に観測した太陽や月の位置との差で、経度を割り出し、安全な航海が出来るようになったというお話なんですが、、、

その際、出航前に合わせた時間こそが、イギリス ロンドンのグリニッジ天文台の時間。その後、各国の船乗りたちにその方法が広まった流れから、グリニッジ天文台の時間が標準時となったわけです。

航空機や鉄道の発達 時差は陸地にも

そこから時代を経て、正式にグリニッジ天文台の時間が本初子午線(経度0度0分0秒と定義された基準の経線)となったのは1884年、ワシントンD.C.で行われた国際子午線会議から。

この背景には、人類の移動が海だけでなく、陸地においても活発になったことがあります。19世紀末から20世紀前半にかけて。世界各地で増えたのは、鉄道や飛行機での移動。そして、それを繋ぐための通信機器も発達しました。

これにより、人々は陸地においても、時差を気にする必要が出てきたわけですね。国際子午線会議により、世界は経度15度ごとに24分割され、24のタイムゾーンが誕生しました。

1937年 ワールドタイム搭載の腕時計

こうした経緯の中で、腕時計にも求められた機能。それが世界中の時間を表示するワールドタイムというものでした。今現在もパテック・フィリップやヴァシュロン・コンスタンタンが展開しているワールドタイム搭載の時計。これらは、1937年にスイス・カルージュの時計師ルイ・コティエによって生み出されたワールドタイムウォッチが原点です。

その構造は、文字盤内に24時間で一周する回転リングを備え、その数字と外周部分に記された世界の都市名とを合わせて、時間を読み取るというもの。腕時計という限られたスペースの中で、世界中の時間を表示することに成功しました。

視認性に特化して作られたGMTマスター

しかしながら、一見便利そうなワールドタイムウォッチにも弱点が。それが視認性の悪さです。都市名が所狭しと並ぶ文字盤は、直感的に時間を読み取るのには不向きでした。

これを不便に思ったアメリカの航空会社パン・アメリカン航空は、もっと見やすいものを作って欲しいと、ロレックスに依頼。それを受けたロレックスは、1955年、GMTマスターを発売しました。

GMTマスターは、ワールドタイムの機能を整理し、不要な時間帯の表示をカット。ホームタイムとローカルタイムの2つの時間帯にのみ、機能を絞り込みました。24時間で1周する針と回転するベゼルによって表示される2つの時間は、視認性と直感的な読みやすさが大幅に改善。腕時計としての『GMT』は、こうして誕生したのです。

ところで、ホームタイムというのは、使い手の拠点の時間帯のことです。使い手によって東京だったり、ロサンゼルスだったり、ロンドンだったりと、異なります。しかし、ロレックスはTime zone マスターとか、Time difference マスターという名称にせず、あえてGMTマスターという名称にしたんですよね。

かつて、大航海時代の船乗りたちがホームとしたグリニッジ天文台の名を残すことで、パイロットたちが安全に飛行し、ホームで待つ家族の元に無事に帰ること。そんなことを願って、名付けたのではないかと思うわけです。

GMTウォッチの進化

その後、GMTウォッチは機能面で2つの大きな進化を遂げます。

一つは、短針単独駆動。リューズの操作で、短針のみを動かせる機能です。これは1980年代、ロレックス・GMTマスターⅡに採用。ホームタイムと2つのローカルタイム、合わせて3つの時間帯を、1つの時計で読み取ることが可能になりました。

もう一つは、GMT時針の単独駆動。GMTの針のみを、動かすことができる機能です。こちらは回転ベゼルがなくとも、2つの時間を読むことが可能に。オメガやIWC、カルティエ、シャネルなどのGMTウォッチで採用されています。

回転ベゼルを無くすことで、デザインの幅がグッと広がり、ドレッシーな時計でもGMT機能を楽しめるようになったんですね。

まとめ

といったところで、本日は「GMT」についての基礎知識、お届け致しました。大航海時代に生まれた概念を、国際パイロット向けに形にしたことで誕生したGMTウォッチ。デザインのみならず、背景まで知っていくと、さらに愛おしくなってきますね!